今でこそ、世界各地に優れた映画学校はありますが、それでも未だにロサンゼルスには一流のフィルムメーカーになると野望を抱えて世界中から多くの人が集まります。
私もその一人で大学に入ったのがもう何年も前なのですが、入学式の時に学長が語りかけた言葉が未だに自分の支えとなっていますので、ご紹介したいと思います。
Sponsored Link
いざ、世界最大の映画学校へ
2014年に世界で最大規模の映画学校でNew Yor Film Academy(ニューヨークフィルムカデミー)のロサンゼルス校のMaster Degree Program(修士課程)に進学しました。
この時点で既に何年もアメリカに滞在し数々のプロジェクトに参加していたので、もはや大学一年生の時のような新鮮さはなかったのですが、それでも入学式はアメリカの5大メジャースタジオの一つ、Waner Brothers Studio(ワーナーブラザーススタジオ)で行われるということで興奮をしていたことは覚えています。
スタジオ内は警備が厳重なので普段はなかなか入ることができません。
中にはカフェもあるのでそこに従事する方や、そこを利用するスタッフや役者さん、そして明らかに雰囲気が違うスーツの一団が居たりと、なかなか特殊な環境なのです。
人生は決断の連続だ
撮影が行われている大きなスタジオ群の脇をくぐり抜けていくと至る所にスクリーニングルームと呼ばれる映画の試写会が行われる場所が存在していて、入学式はそちらの一つで行われました。
前半は各デパートメントの代表がシステムや注意事項、カリキュラムの説明など事務的な説明がほとんどでしたが、それらが終わると待ってましたと言わんばかりにチェアマン(学長)が厳かに登壇してきました。
「どれだけこの学校が素晴らしいか」「自分の教え子があの有名な〇〇だ」などの自慢のような話が続いて、アメリカも偉い人は言うことは一緒なのだな、と少し退屈していて話を聞いていると、話の終盤に差し掛かり、トーンが変わりました。この切り替えが非常に巧みなのです。
「君たちはこの学校に来るという大きな決断を下したばかりだが、これから君たちをさらなる決断の連続が迎えるだろう」
「映画の世界は常に選択と決断の連続で、撮影する役者のキャスティングから時には会社の命運がかかった大きな決断もすることもある」
「時には厳しい決断も下さなければいけないこともある。だけど、その決断を下す前に…」
学長は少し間をおいて、
「お手洗いに行きなさい」
決断の前にお手洗いに行く理由とは
「なぜ、お手洗いに行くのかわかりますか」
学長がそう問うと、少し時間が与えられて私もその理由を考えました。私はよくトイレの中で構想を練ったりするので結局はそういうことなのかな、と月並みな事しか浮かびませんでした。
「お手洗いには必ずアレがある」
「アレとは鏡だ」
「決断を下す時に一番良くないのは、イライラしている、不安だ、お腹が減っている、など冷静な判断が状態で行うことだ」
「しかし、鏡を通して自分を客観的に見ることで人間はその状態を落ち着かせることができる」
「だから、何か決断を下す時は手を洗いに行こう。そこで自分を見つめ直すのだ」
その時あなたは正しい判断を下せるか
実際その後、学長の言うように決断の連続でした。卒業制作では200万円近く費用がかかり、かなりのプレッシャーに疲労困憊で、とてもじゃないが冷静な判断ができない状態が続きました。
そんな時に、言われたようのお手洗いに行き、冷たい水で手を洗うと目の前の鏡に自然と自分の姿が映ります。「ひどい顔してるな」と、自分を客観的に見れたことで少し落ち着くことができたのです。
お手洗いに行って帰ってきても、せいぜい数分なのでこの行為を行ったからといって判断が遅れた、ということにはあまりならないでしょう。
むしろ気をつけないといけないのは、この数分の行為を惜しんで、不安定な状態で決断を下すことだと思うのです。一つの選択は時に人生を狂わせるのですから。
そして、私は最近もまた結婚という大きな決断を下したのですが、彼女がプロポーズの返事を言う前に「お手洗いに行かせて」と言わなかったことは本当に幸運だったことも合わせて報告させていただきます。